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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)500号 判決 1957年4月08日

控訴人 佐藤辰男

被控訴人 佐藤猪一郎

主文

一、原判決を取消す。

二、被控訴人は控訴人に対し別紙<省略>第四物件目録記載の土地につき、農地法による所有権移転の許可申請手続を為し、且つ右土地につき所有権移転登記手続をせよ。

三、被控訴人は控訴人に対し別紙<省略>第五物件目録記載の土地につき、所有権移転登記手続をせよ。

四、被控訴人は控訴人に対し金二九、七六七円及びこれに対する昭和二九年三月一四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

五、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

六、本判決第四項は仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は主文第一項ないし第五項同旨の判決並に第四項につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において原判決事実摘示中請求原因の(三)において「昭和二〇年八月一日被告(被控訴人)の実父哲蔵が被告を代行し」とあるのは、「哲蔵に被控訴人を代理する権限があり、その代理権に基いて」の意味である、また右(三)の末尾に「被告は昭和二一年三月一日頃右の取決めを追認した」とあるのは、哲蔵に右のような被控訴人を代理する権限がないと認められた場合に対する仮定的な主張であると述べ、なお双方において左記の通り陳述した外は、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(控訴人の主張)

「一、原判決は本件当事者間の財産分割につき、被控訴人の実父哲蔵に被控訴人を代理する権限がないと判示したが、右哲蔵に代理権のあつた事実は左記の通りであり、仮に同人に代理権がなかつたとしても、控訴人には左記事由によつて同人に代理権ありと信ずべき正当の事由があつたものであるから、民法第一一〇条の規定が適用せらるべきものである。

(一)、昭和二〇年八月一日附不動産及び動産贈与証書(甲第一〇号証、乙第七号証)に被控訴人の実印として哲蔵が押捺した印章は、控訴人の父佐四郎が控訴人の実印を作成せしめる機会に、哲蔵に頼まれて同時にこれを印章店に注文し、印刻せしめたものである。そして哲蔵は右印章中佐藤猪一郎の「一」の文字の中間を削り「一」のようにして、その後被控訴人の印章として哲蔵がこれを保管使用し、被控訴人が昭和二〇年一月三日復員直後これを、右事実を伝えて被控訴人に手交し、被控訴人は爾後自らこれを実印として使用し、現在に至つている。

(二)、哲蔵は被控訴人の養父安太郎死亡後被控訴人の復員までの間、被控訴人の相続財産を管理運用し、株式の名義書替、配当金の領収、株金の払込、大安商店の資産の分割(甲第一五号証)についても被控訴人を代理し、また小作料の受領、公租公課に関する所轄官署との交渉及びその支払等に至るまで、被控訴人のため一切の行為を代理行使していたものである。

以上の通りであるから、右哲蔵が被控訴人に代つてした本件贈与財産の分割は、同人の有する代理権に基いて正当にせられたものと解すべきであり、仮にそうでないとしても控訴人には右哲蔵の代理権を信ずるにつき正当の事由があるものであつて、右分割は被控訴人に対して効力があるものと主張する。

二、なお右何れも理由なしと仮定しても、被控訴人は実父哲蔵の右分割契約につき明示または黙示の追認をしているものである。

(一)、被控訴人が復員直後、実父哲蔵より実印作成の事情の詳細を報告せられてこれを受取つたこと、前記の通りである以上、その相続財産の管理処分の内容につき詳細な報告を受けたことは、条理上推定できるところであり、まして養父安太郎の死亡は被控訴人の出征不在中のことであつて、養父死亡後哲蔵が被控訴人のため相続財産全部を管理していた以上、なお然りと信ぜられる。

(二)、被控訴人は復員後哲蔵在世中であつた昭和二〇年一一月、控訴人に贈与すべき不動産中臨時農地等管理令により許可を要する農地について、神奈川県知事に対し許可申請書(甲第四四号証の正本)を控訴人と連署の上提出した。

(三)、被控訴人は昭和二一年三月一日贈与不動産中前項の許可を必要としない宅地全部につき贈与証書を作成し、これが所有権移転登記手続をした(甲第一八号証)。

そして右登記のため使用せられた被控訴人の印章は全部前記被控訴人の実印である。

(四)、昭和二二年二月一五日附被控訴人提出の財産税課税価格等申告書(甲第二三号証、乙第一六号証)には控訴人に贈与した財産は全部除外されている。

(五)、昭和二四年一月一三日附相続税分担金領収書(甲第二四号証)の金額は佐四郎の大安商店に対する出資持分四分の一の相続税分担分であるが、右書証と同形式の受領証を領収した事実もある。

(六)、昭和二〇年三月頃本件贈与財産につき、これを明瞭にするため、被控訴人の実父哲蔵は大安商店の座敷において「番地入り市町村明細図(六百分の一)」に赤青の色鉛筆を使つて、控訴人及び被控訴人に分割した土地を色分けしていた。

右地図は被控訴人において現在所持している。

(七)、昭和二三年一〇月末頃控訴人被控訴人打連れて散歩に出たとき、台風のため流された荒田(秦野市柳河原所在)を見て、被控訴人は「君に贈与した田が洪水により流されたね」と感慨深く述懐した事実がある。

以上の事実から見ても被控訴人が父哲蔵のした本件分割契約につき明示または黙示の追認をしていたことは明かである。」

(被控訴人の主張)

「控訴人に哲蔵の代理権を信ずべき正当の事由が存し、また被控訴人が本件分割契約を追認したとの控訴人主張事実は全部これを争う。控訴人に右正当事由の存しないことは乙第八ないし第一〇号証の記載に徴し明かであり、また被控訴人に右追認の事実のないことは、被控訴人が本件贈与証書の存在を昭和二四年夏以後に知つた事実に徴しても明かである。」

当事者双方の提出援用した証拠及びこれに対する認否は、控訴代理人において甲第三一ないし第三四号証は写を原本として提出し、なお当審において甲第四三、第四四号証を提出し、当審証人佐藤七郎の証言及び当番における控訴本人の供述を援用し、乙第一三ないし第一六号証は原本の存在成立ともにこれを認めると述べ、被控訴代理人において乙第一三ないし第一六号証は写を原本として提出し、当審証人堀内貞一の証言及び被控訴本人の当審供述を援用し、甲第三一ないし第三四号証は原本の存在成立とも、同第四三号証はその成立を、いずれも認めるが、同第四四号証は否認すると述べた外は、原判決の事実摘示欄の証拠干係に関する記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

一、原判決理由の記載のうち(一)(二)及び(三)の前半の部分、即ち控訴人と被控訴人とが佐藤安太郎家に入籍した経緯、安太郎が昭和一六年一一月五日書面によつて控訴人に安太郎所有財産の百分の三五を贈与した事実、安太郎の死後昭和二〇年八月一日控訴人の父佐藤佐四郎と被控訴人の実父佐藤哲蔵とが協議し、右贈与の趣旨に則り控訴人の所有とすべき物件の取決め、即ち相続財産分割の協議をして、右取決めの書面として、哲蔵が被控訴人名義で控訴人宛贈与証書(甲第一〇号証)を作成したまでの事実認定及びこれに関する証拠判断等はすべて当裁判所の判断と合致し、これを変更すべきものはなく、当審に至つて新たに提出援用せられた証拠を以つてしても右における認定を左右することはできない。よつて、原判決中右理由の記載を引用する。なお、この点について次の説明を附加する。すなわち、証人佐藤七郎の当審証言によつて成立を認める乙第一号証によれば、安太郎が同人所有財産の百分の三五を大安商店に対する同人の持分の三分の一を含めるものとして控訴人に贈与したのと同日である昭和一六年一一月五日に、大安商店の財産を基礎として有限会社大安商店を設立する定款が作成せられ、その定款において、控訴人が安太郎、哲蔵、佐四郎、近藤いねと控訴人五名の共有と主張する大安商店の財産が、全部安太郎の単独所有として同人から現物出資せられるように記載されている事実はこれを認めるに足るのであるが、右は資金調整法の関係で法人組織への変更を急いだため、当時全部の所有名義人であつた安太郎の単独所有として手続を簡略ならしめんとしたに止まり、必ずしも真実の所有干係と合致するものでないこと証人佐藤七郎の原審及び当審証言によりこれを認めるに足るのであり、また少くとも控訴人への贈与証書である甲第九号証との関係では、控訴人への贈与の履行期は安太郎の死亡の時また控訴人が成年に達した時と定められており、右定款作成時においてはまだその履行期が来ていないのであるから、控訴人の所有に帰すべき大安商店の財産が、当時において、安太郎の所有財産と表示されることには何等の不審もない訳であり、従つて右乙第一号証の記載も甲第九号証による贈与が真実行われたものとの認定を何等左右すべき資料とはならない。また被控訴人は甲第一〇号証(乙第七号証)は被控訴人の相続税軽減のために作成せられたものと主張し、同号証の作成が右のような目的のためにもせられたものであることは原本の存在成立ともに争いのない甲第三四号証(証人斎藤正良の証言調書)によつてこれを認めるに足るのであるが、右事実と右甲第一〇号証によつて真実贈与(贈与財産の具体化)が行われたこととは別に矛盾するものではなく、両者両立し得るところであるから、右事実また甲第一〇号証による約定が真実為されたものであるとの認定を覆すに足る資料とはならない。

二、そこで次に哲蔵に前示甲第一〇号証による取決めをする権限があつたか否かについて検討しよう。

右甲第一〇号証による約定は昭和二〇年八月一日に被控訴人の実父である哲蔵によつて被控訴人の名義を以つてせられたものであること前記の通りであつて、当時被控訴人が出征不在中であつたことは成立に争いのない乙第六号証及び被控訴本人の原審並に当審供述に徴し明らかである。従つて甲第一〇号証による約定は、被控訴人の出征不在中被控訴人の実父である哲蔵において被控訴人を代理して締結したものと認むべきであるが、果して同人に右のような取決めをするについて被控訴人を代理する権限があつたものと認むべきであろうか。

これを一般的に観察すれば、出征不在中の軍人の場合、その留守中の財産に関する行為は、特別の事情のない限り、少くともその管理保存に関するものは、その留守を守る親族中の適当な人にこれを一任しているもの、従つてこれにその代理権を授与しているものと解するのが相当であつて、本件の場合被控訴人がその留守中の財産管理等につき特別の意思表示をした事実は何等これを認めるに足る証拠はない。そして哲蔵は被控訴人の実父であつて、被控訴人が佐藤安太郎の養子となる前は被控訴人の親権者であり、右養子縁組の際その他すべての場合につき被控訴人の利益の擁護者として行動して来たものであること、本件口頭弁論の全趣旨に徴してこれを認めるに足るのであるし、また、成立に争のない甲第一二、第三一、第三三号証によると佐藤政吉は味噌醤油の醸造販売を目的とする大安商店を個人で経営していたが、大正五年中相模銀行の頭取に就任したので、同商店のその後の経営については、長男安太郎は病身のためこれを除き、次男哲蔵と三男佐四郎とに同商店所属の財産の一部を分与してその共同経営に委ねてあつた。それで大安商店の営業に属する財産については被控訴人は養父安太郎の死亡後においても実父哲蔵と密接な関係にあつたので、被控訴人の財産管理に好都合であつたのに反し、養家には被控訴人の財産管理に適する人が存在しなかつたことが明らかであるから、被控訴人はその応召出征に当つては、少くとも養父安太郎の死亡後のことについては、特に重要なことはこれを別としても、通常の財産処理のことについては後事のすべてを右哲蔵に託したものと認めるのが相当であつて、現に哲蔵は被控訴人の出征不在中、被控訴人の所有財産につき、大安商店の配当金の処分、相続財産中の土地の地代の取立、公租公課の支払等一切を被控訴人に代つて処理しており、被控訴人の実印も、佐四郎が被控訴人のものと同時に作成させたものを、哲蔵において保管使用していたものであること証人佐藤七郎の当審証言及び被控訴本人の原審及び当審供述に徴し明かである。

そうすれば哲蔵は被控訴人の応召不在中被控訴人の所有財産につき、少くとも通常の事務については被控訴人を代理する権限があつたものと認めるのが相当であるが、さてそこで本件甲第一〇号証による約定を以つて右代理権の範囲内のものと認むべきか否か。

甲第一〇号証(乙第七号証)による約定は、同号証によつて明かなように、昭和二〇年八月一日附を以て別紙第一物件目録記載の不動産及び他の有価証券を被控訴人から控訴人に贈与する旨を約したものである。従つて右約定はその字義通りにいえば、右約定を以て右各物件を被控訴人から控訴人に贈与したこととなるのであるが、右はただ前認定の甲第九号証による安太郎から控訴人に対する贈与が安太郎所有財産に対する割合(百分の三五)を以つてせられたに止まり、具体的に如何なるものを控訴人に贈与するかが明かになつていなかつたため、その具体化のためにせられたに過ぎないものであること前段認定事実に徴し明かである。そうして右甲第九号証による贈与の履行期は控訴人が成年に達した時または安太郎死亡の時とせられたものであること前認定の通りであり、安太郎が昭和一九年八月四日に死亡したことは当事者間に争いがないのであるから、右甲第一〇号証による約定の当時においては、被控訴人が安太郎から相続した財産のうち百分の三五は既に右贈与によつて控訴人の所有となつていたものであり、右相続財産は被控訴人と控訴人との共有干係にあつたものであつて、右甲第一〇号証による約定はその共有物を各自の持分に応じて具体的に分割する意味を持つに過ぎないものというべきである。そうすれば右甲第一〇号証による約定は形は贈与契約となつているが、その実質は共有物の分割であり、持分の具体化に過ぎないものであるから、その具体化につき特別の利害関係があるものとも認められない本件にあつては、これを特に重要な財産的行為として、前記哲蔵に託された通常の事務以外のものとも認めることはできないのであつて、哲蔵が被控訴人に代つてした右約定は同人の正当な権限に基くものであり、従つて被控訴人においてその責を免れることはできないものと解するのが相当である。

そうすれば別紙<省略>第一物件目録記載の物件が控訴人に贈与せられたことは明かであつて、被控訴人は控訴人に対し右贈与物件を引渡すべき義務を負担したことまた当然である。ところが右各物件中別紙<省略>第二物件目録記載の物件だけは昭和二一年三月一日に控訴人に所有権移転登記がせられ、またその引渡のあつたことは甲第一八号証及び証人佐藤七郎の原審並に当審証言により明かであるが、残余の物件については未だにその履行がないことは本件口頭弁論の全趣旨に徴し明かであつて、しかも右残余物件のうち別紙<省略>第三物件目録記載の農地は自作農創設特別措置法により買収せられ、その買収代金として合計金二九、八三六円一五銭が被控訴人に交付せられていることは成立に争いのない甲第一九、第二〇号証に本件口頭弁論の全趣旨を総合してこれを認めることができる。

三、そこで進んで控訴人への右贈与財産については、昭和二五年一二月六日控訴人の代理人である実父佐四郎と被控訴人との間で和解が成立し、既に控訴人名義に変えられた財産はそのまま控訴人の所有たることを認め、今後は被控訴人名義の農地で農地法によつて買収せられたものの代金の三分の一を金三万二千円と定め、これを被控訴人より控訴人に支払うこととし、その他には控訴人は被控訴人に対し何等の財産的請求をしないものとし、なお、右買収代金三万二千円は控訴人の実父佐四郎より被控訴人に支払うべき別途債務と棒引勘定とする旨が約せられたものであり、従つて控訴人主張のような義務は消滅したとする被控訴人の抗弁について判断する。

控訴人の実父佐四郎と被控訴人との間に、被控訴人主張の日にその主張のような和解契約が締結せられたことは控訴人も争わないところであるが、控訴人は右和解につきその実父佐四郎に控訴人を代理して右のような和解をする権限がないと抗争するものである。

控訴人が昭和三年五月一七日生であることは成立に争いのない甲第八号証によつて明かであり、従つて右和解のせられた昭和二五年一二月の当時においては既に成年に達し、自己の財産に関する行為等は既に自らこれを為し得る年令に達していたことは明かである。しかし控訴人は昭和二〇年三月秦野中学校、同二三年三月高知高等学校を各卒業してその後東北大学医学部に進学したものであつて、右和解契約の当時においては学生であり、その財産の管理等もこれを父佐四郎に委せていたものであること、控訴本人の当審供述に本件口頭弁論の全趣旨を総合してこれを認めるに足るのである。従つて右佐四郎には控訴人を代理して控訴人所有の財産管理等に関する行為をする権限があつたものと認めて然るべきであるが、ただ右代理権の範囲についてはこれを認定すべき特別の事情や証拠のない本件においては、哲蔵の被控訴人に対する場合と同様(被控訴人の場合は応召出征中であるのに、控訴人の場合はただ学生生活を送つているというに過ぎないのであるから、更に強い理由を以てであるかも知れない)通常の財産処理に関する事務に限られたものと解しなければならない。

そこで問題は右和解による約定が控訴人の財産に関する通常の事務といい得るか否かであるが、右和解は前記の通りの内容であつて、右和解によつて控訴人は、一方本件受贈財産のうち既に控訴人の名義に変えられたものはそのまま控訴人の所有たることを認められ、買収農地の代金の三分の一を渡されることとなつてはいるが(これは本件贈与が正当に行われたものであるとの前段認定からいえば、固より当然なことである)、他方においては被控訴人に対し右以外には何等の財産的請求をしない(従つて本件のような受贈財産の未履行分の履行を請求することはしない)ことを約せられているのであり、しかも右三分の一の農地代金は、右和解を控訴人の代理人として締結する佐四郎自身の債務と棒引勘定をしてその債権を消滅せしめる(この場合においては代理人たる佐四郎と本人たる控訴人との利害が相反することはいうをまたない)ことが約定せられているのであつて、右が控訴人の財産に重要な影響を及ぼすものであり、到底通常の事務というを得ないものであることは多言を要しないところであろう。

四、そうすれば被控訴人主張の和解契約は佐四郎がその権限外において被控訴人と締結したものであつて、右和解は控訴人にはその効力を及ぼすことはできないものであるから、爾余の争点に対する判断をするまでもなく被控訴人は控訴人に対し、別紙第四物件目録記載の土地については農地法による所有権移転の許可申請手続をして所有権移転登記をし、別紙第五物件目録記載の土地については所有権移転の登記手続を為し、なお既に買収済の第三物件目録記載の農地については、被控訴人受領の代金二九、八三六円一五銭は被控訴人が控訴人の損失においてその利得をしたものであり、その利益は現存するものと推定すべきであるから、右金員中控訴人が本訴において請求する金二九、七六七円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明かな昭和二九年三月一四日以降完済に至るまで年五分の割合による損害金を支払うべき義務があることは明かであつて、右と趣を異にして控訴人の本訴請求を排斥した原判決は不当であるからこれを取消し、控訴人の請求を全部認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九六条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 薄根正男 奥野利一 山下朝一)

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